Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル・番外編

    “秋の声がする”
 



夏の蒸し暑い間は、
まるで油を染ませたような厚ぼったい色合いの青だった空も。
季節が移って涼しい風が吹くとともに
その厚みがじわじわと剥がされてゆくものか、
それとも一雨ごとにごしごしと洗われてのことか、
今はすっかりと澄み渡り、
その蒼穹の底も随分と高みへ遠のいたように見えさえし。

「はっぱ、しゃわしゃわvv」
「しゃわしゃわねvv」

ほんのつい先日までは緑の原っぱだったものが、
急な秋めきにあっという間に枯野の風情。
ススキだろうか、背の高い長い葉の沢山生い茂った、
ちょっとした自然の要塞のような草むらの原に
歓声上げて飛び込んだ小さな童が二人ほど。
風に撫でられ掻き回されては、擦れ合って音を立てるのが面白いのか、
自分たちでも縦横無尽に駆け回っては
さわさわと鳴らしてはしゃいでいるらしく。
背丈より高い草むらの中は、ちょっとした迷路のようだろうに、
相手の行く手へ顔を出したり、キャアキャアと声上げて逃げてみたり、
それは楽しそうに遊んでおいで。

「あーあー。こんな中に入ってもう。」

そろそろ陽も傾いて来たのでと、
お屋敷からちびさんたちをお迎えにとやって来た書生くん。
声はすれども姿は見えぬ相手の居場所に、
やれやれとしょっぱそうなお顔になるのもいつものこと。
見た目は小さな幼子で、
ぎゅうひ餅みたいにやわやわな頬とか小さなお手々とか
ススキの葉の縁で切れちゃうんじゃなかろうかと案じてしまうものの、

 “判っているんだけどもね。”

実体はふさふさの毛並みをした子ギツネ二人。
もっと大人になったなら、葉擦れの音さえ消して動き回れるような野生の存在。
案じてやるのは見当違いだと、師匠に笑われておいでなのも毎度のこと。

 “でもなァ、あんな可愛いんだもの、”

無邪気で屈託がなく、人懐っこくて甘えん坊。
セナへもそれはよく懐いてくれてる弟分たちなんだから、
痛い目にあっちゃったら可哀想だって思うのも、これまた自然な反応ですよと、
ここにはいない金髪の師匠殿へ言い訳をし、

「くうちゃん、こおちゃん。そろそろ帰ろうよ〜。」

口許へ手のひらを添え、伸びやかな声を掛ければ、
きゃいきゃいというはしゃぎ声がどんどんとこちらへ近づいて来、

「せぇな!」
「おむかえ!」

ばさーっと飛び出してくるお元気坊主らに、
やあっと勢いよく抱き着かれて、たたらを踏みかかるのも毎度のこと。
小さな子らなのでそのまま転ぶほどでもないけれど、

「わあ、びっくりした♪」

お道化て笑えば、まんまる笑顔がもっとはじける。

「今日はネ、バッタがいっぱいぱい居たのvv」
「居たの〜♪」

駆け回る足元、追い出されるよにぴょんぴょんと飛び出してくる虫たちなのへ、
踏みつぶしたいわけじゃあない、でも面白い〜♪と。
虫たちには ちと迷惑だったろうが、
そんな他愛ないことへも十分はしゃいだ坊やたちだったよで。
右と左と、両方の手へそれぞれの子とお手々てをつなぎ、
いろんなお話を聞きながら、
家人とご馳走とが待つお屋敷までの家路をたどる。

「あんねあんね、時々誰かがおいでおいでっていうのね。」
「おいでおいで?」

坊やたちとは仲良しのお兄さん、
縄みたいな髪をしたあぎょ、もとえ、阿含さんかなと訊くと、
ん〜んと揃ってかぶりを振って、

「ちやうの。」
「ちやうよ。」

衒いなく言いのけてから、

「見えないない誰かの声だけすゆの。」
「すゆの。」

ね〜っとお顔を見合わせる坊やたちなのへ、
それって怪しい誰かがこの子たちに目を付けたのでしょかと
ドキドキと案じたセナくんだったれど。

『そりゃ違うな。』

意外や応じてくれたのは、
相変わらず真っ黒な衣紋をまとう侍従殿。
実は蜥蜴の総帥でもある葉柱なれば判ることらしく、

『そこいらに気配だけ滲む、地べたや川や群れになった草、
 お前らの言う精霊とか、そういったのの精気がな、
 見守ってくれてのこと、
 もっと遊んでお行きだのって格好で気配を伝えてくれるんだよ。』

くうもこおも微妙に野生の存在だから、
嗅ぎ取れる感度も高くって、
誰かの呼ぶ声みたいに“聞こえる”んだろうよと。
精悍なお顔を和やかにほころばせて話してくれて。
そこへ、

『そうか、お前もどこぞかの地べたに袖を引かれて
 ねんごろになった挙句に居着くこととかあるんだな。』

ややこしいツッコミを入れた誰かさんだったのへは。
何言い出すかなと取り成す葉柱の大きな背中ごと、
可愛い大人たちだなぁなんて、
これは人としての感覚、
ちょいとおませな感慨を抱いた書生くんでもあったそうでございます。








     〜Fine〜  16.10.27


 *なんか妙な〆ですいません。
  偉そうに講釈たれてんじゃねぇ、ではなくて、
  お前もどこぞかの精霊に惹かれることがあんのかよと。
  揚げ足とったつもりが焼きもち全開だった誰か様。
  セナくんに読まれてちゃあ世話はありません。(笑)

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